覆面座談会読み物

【業界別覆面座談会】電力会社社員の「電気も会社も変化してるよ」

【業界別覆面座談会】 とあるウェブマガジンで書いてた人気連載。数年を経ても面白い記事をピックアップしていきます。

某電力会社の本社で働く30代。左から、白クマ(39歳)、写真家(35歳)、ウサギ (39歳)と呼ぶ。

黙っていても電気は売れる。今回集まってくれたのは、不況知らずの大企業である電力会社で働く30代のみなさんだ。エコとか省エネがますます注目される世の中で、電気を作り、送り届ける側の本音と思い。聞いてみようじゃないですか!
奇跡的に2011年2月(3.11直前)に掲載されました。

超安定企業の正社員。エリート意識は満々ですよね?

ウサギ いやあ、そんなことないよ。就職が決まった時も、親や親戚には評判よかったけど、自分としては「とにかく大きな会社に入りたい」くらいの思いしかなかったし。

白クマ そもそも、電力会社ってキツい印象があるのか、就職の人気ランキングでもそんなに上位にはこないからね。「成長」とか「改革」って言葉がすごく似合わない会社だし。

写真家 学生が就職先を選ぶときって、夢を描きたいはずでしょ。でも、学生の立場で手に入る情報だけじゃ、成長や改革が似合わない会社に夢を思い描けないんだよ。オレもそうだった。ま、実際に入社して働き始めたら、どんな仕事でも夢は自分で描くモノなんだってわかったけどさ。

白クマ 待遇だってそんなにいいとはいえないし。昔は福利厚生とか、給料以外のプラスαが恵まれてたけど、最近はどんどん削られてるもんね。

ウサギ それに、今はなかなか管理職に出世できないんだよね。僕らのちょっと上の世代に大卒をたくさん採用しちゃったもんだから、ポストに対して人が余っちゃってるから。

白クマ ま、管理職になると残業代が付かなくなって手取りが下がるから、別に出世なんて望んでないんだけど。

写真家 ああ、そういえばオレの上司が「管理職になって家のネット代が払えなくなった」って嘆いてたな。

ウサギ もともと、お役所的な社風が強い会社でもあるからね。ある程度の年齢になったらグループ会社へ天下り的に出向したりして。

白クマ さすがにこのご時世だから、年功序列を超越した人事も最近はチラホラあるけどさ。もっと思い切ったことをやらないと、社風そのものは変わらないよなあ。

やっぱり、お役所体質なんですか?

白クマ たしかに、とてもお役所的な会社ではある。僕は一時期、情報系の会社に出向してたことがあるんだけど、本社と比べて時代を読んで対応する仕事のスピード感がまったく違うのを実感したなあ。

ウサギ 単純な話、何かひとつのことを決めるにも、決裁をもらわなきゃいけない部署が多過ぎるんだよ。根回しとかしている間に機を逃す。

白クマ 電力会社では、普通の会社の「売上目標」のことを「需要予測」って呼ぶのが象徴的。電気は黙ってても売れていくからお客さんを意識してないし、どうしても「待ち」の姿勢になっちゃうというか。電力自由化が本格化した2000年頃から、少しずつ変わってきてはいるけどさ。

写真家 自分が「モノ」を売ってる実感がないからねぇ。電力会社にいると、お金は自然に入ってくるものって感じ。自分の仕事でお金を稼いでいるって意識はまるでない。

ウサギ そうだね、仕事してても「自分の時間を切り売りしてるだけ」みたいな感覚があるのは否めない。でもさ、逆に「電気を届けることで社会に貢献してる」っていう使命感や正義感は、社員みんながもってるよな。災害とか起きた時、インフラの中で電気はたいてい一番先に復旧するでしょ。全国の電力マンの仕事に対するプライドのなせる技なんだよね。

白クマ そもそも、電気を作って売ってる会社なのに、テレビとかでは「電気を無駄使いするな」ってメッセージのCMをやってたりするでしょ。よく考えてみれば矛盾してるんだけど、電力会社の社員としては、会社の売上を伸ばすことよりも、電気を効率よく賢く使って欲しいと思う正義感のほうが強いんだよな。

写真家 電気を作る、送り届ける。それぞれの役割の社員が自分の仕事に使命感をもって取り組んでるのが電力会社。もうひとつの大事な役割が、電気を大切に使うための意識や技術を広めるってこと。なんだか企業広告みたいな台詞だけど、綺麗ごとじゃなく、オレはほんとにそう思ってる。

家庭の省エネってそんなに大切なんですか?

写真家 はっきり言って「電灯をこまめに消しましょう」とか、あれはレジ袋と同じでほとんど意味がない。

ウサギ むしろ、待機電力のほうがでかいんじゃない?

白クマ 効率よく電気を節約するためには、最新の省エネ家電に買い換えるのが一番だよな。エアコンとか冷蔵庫とか、びっくりするくらい違うから。まあ、家電の売り上げが増えたところで、うちの会社には何にも得はないんだけどさ(笑)。

写真家 照明器具も最近はLED電球が広まってきたし。とくに「熱」を使う家電は、省エネ家電の効果が大きいね。ヒートポンプで給湯する「エコキュート」もどんどん普及してる。普通の電気温水器に比べて高価なエコキュートみたいな商品がこんなに売れるのは、日本のすごいところだと思うよ。

ウサギ 家庭のオール電化が普及したりとか、電気の使い方が変わってきてるけど、電気の作り方もどんどん変わってるってことも知ってほしいな。原子力や太陽光、CO2を出さない技術が進歩してるし、火力発電でも効率を上げることで排出するCO2を減らしてる。日本のそういう技術は世界最高水準なんだよね。

写真家 ただ、太陽光発電が普及し過ぎると、昼間の電力が余る時代になっちゃう懸念があるんだよね。近い将来、発電規制とかしなきゃいけなくなるかも知れない。

白クマ 電気を作るだけじゃなくて、太陽光とかで作ったクリーンな電力を「貯める」技術も大事だね。

ウサギ 昼間の電力需要と深夜の電力需要の差を調整する「しわとり」は、電気の品質を維持するために必要なんだ。電気の作り方が多様化したら、ますます大事になるだろうね。

原子力発電はやっぱり必要なんですか?

ウサギ そりゃ、どう考えても必要でしょ。日本の現状を考えても、原子力発電がなきゃ電力需要を支えきれない。ま、反対してる人の気持ちもわかるけど、感情的な反対意見が多いよね。

写真家 オレは宇宙が大好きなんだけど、宇宙空間なんて放射線だらけ。自然界にも放射線はあるからね。感情的に反対してる人と話すと、あまりにも原子核物理学の知識が乏しい人が多いのは気になるな。でも、原子力発電がエネルギーを取り出す方法として圧倒的にクリーンなのは、そんなに勉強しなくても理解できるでしょ。

白クマ それに、原子力発電はコストも安い。電力会社の経営が安定して、電力の安定した供給にも貢献してるからなあ。中国やインド、急激に成長してる国が火力発電でガバガバ石炭や天然ガスを燃やしたら、化石燃料なんてあっという間に枯渇しちゃうし、CO2も減るわけない。

写真家 そういう意味では、日本はきちんと原子力を学ぶ人材を育成しなきゃいけないはずなのに、東京大学では「原子力工学科」がなくなった。むしろ、そういう風潮が心配だよ。

ウサギ 反対意見と対立して、業界が閉鎖的なのも問題かもね。原子力業界って、電力業界の中でも特別区みたいになってるもんな。デメリットを隠そうとしないで、もっと活発に議論して、原子力発電への社会の理解を深めていく必要はあるな。

みなさんの将来の夢って何ですか?

写真家 そんなに大それた夢はないなあ。オレは宇宙が大好きで、星を見るのが好きだから、自作の望遠鏡でのんびり星を眺める生活ができれば満足かな。

白クマ 最近、ときどき将来のことは考えるんだけどね。まだ、具体的なビジョンはないんだよね。定年まで会社にしがみついてる気はないけど、家族を養わなきゃいけないから、ギリギリまで粘ってから、自分の好きなことができればいいな。

ウサギ オレは学生時代、かなり本気でスポーツやってたから、高校の部活でコーチとか。自分で何かお店を開くのもいいね。でも、まだ具体的なプランにはなってない。

写真家 ま、電力会社を辞めてどこかで働くにしても、どんな仕事も楽しくやりたい。人間として大事な部分に、正直でありたいってことかなあ。

ウサギ オレ、電力会社に入るときも「人の役に立つ仕事がしたい」って思ってたんだよね。もうすぐ40歳になるから、電力会社での人生はあと15年くらいでしょ。今の仕事を辞めて、自分にはどんな「人の役に立つ仕事ができるのか」。それを考える残り15年ってことだね。

●2011年1月某日 日本国内の某所にて

文・写真/寄本好則

<追記>

印象的だったのは、やはり電力会社社員のみなさんが原発に自信満々だったこと。ウェブマガジンにこの記事が掲載された翌月に福島第一原発の事故が発生。社員のみなさんを取り巻く状況は、ますます厳しくなったと思われます。。。

個人的には「ゴミ捨て場がない」を最大の理由として、この記事取材時点、というか、中学生の頃から原発には反対。先進的な技術の力で、日本が再生可能エネルギー大国になることを願っています。